大山誠一郎「アルファベット・パズラーズ」
大山誠一郎「アルファベット・パズラーズ」
東京創元社 2004.10.19発行 定価¥1,500
期待の新人・大山誠一郎の初単行本。
期待を裏切らず切れ味鋭いロジック・ミステリを楽しめるのだが三つ目の話については保留つき。
初めは翻訳者として名前を知った大山誠一郎のデビュー作はe-Novelsで発表した短篇『彼女がペイシェンスを殺すはずがない』。
この短篇はカー『爬虫類館の殺人』(創元推理文庫)、クレイトン・ロースン『この世の外から』(『魔術ミステリ傑作選』(創元推理文庫)所収、『密室大集合』(ハヤカワ・ミステリ文庫)所収)と同じく目張り密室がテーマ。
『爬虫類館の殺人』はHM卿が探偵役だがそれをフェル博士に解かせようという作品。
トリックのマジック的センスが光る短篇である。
いっぽう『アルファベット・パズラーズ』はトリックよりもロジックが魅力の作品だ。
短編「Pの妄想」「Fの告発」はアクロバットなロジックがすばらしい。
「何故犯人はそうしなければなかったのか」から始まるロジック展開は謎解きミステリを読む者に至福の時を与えてくれる。
中編「Yの誘拐」だけは保留つき。
二転三転するプロットやロジックはすばらしい。
だが、この犯人設定は江戸川乱歩編集『宝石』の新人作家なん人集に選ばれた作家の作品のような設定だ。
一時期の佐野洋、海渡英祐、笹沢佐保あたりが書きそうな設定とも言える。
ビーストン風と言えばわかってもらえるだろうか。
ひねったことで結果的に旧態依然ミステリの犯人設定となってしまった。
新しい感覚で書かれているロジック・ミステリなだけにこの犯人設定にはウームと首をかしげてしまう。
これについてはほかの人の考えも聞いてみたい。