B13号船室−北村薫トークセッションその1

 カーのラジオ・ドラマ『B13号船室』(『カー短編全集4 幽霊射手』(創元推理文庫))の中でヒロインが<パリの万国博覧会を見に母娘がパリに来てホテルに泊まり娘が外出して戻ってみると母親がいなくなる>話が気になってならないという場面が出てくる。

 その短篇集の編集作業をされていた東京創元社の戸川さんは<パリの万国博覧会で母が失踪>話は誰の作品なのだろうと北村薫さんに電話で尋ね、たまたま知っていた北村さんは「それは、コオリン・マーキーの『空室』ですよ」と答えることが出来たという。

 ここまでは北村さんの『ミステリ十二か月』(中央公論社 2004年10月25日発行)に載っているお話。


北村さん:
 「このことを発表した後すぐ、ミステリ・マニアのみなさんから電話がかかって来ました。
 『北村さん、あれはコオリン・マーキーの『空室』では無いですよ。
 ベイジル・トムスン『フレイザー夫人の消失』ですよ』って。
 『B13号船室』が旧『宝石』に訳載されたとき同時に<パリの万国博覧会で母が失踪>元ネタがベイジル・トムスン『フレイザー夫人の消失』であることが書かれていて旧『宝石』にはその翻訳も載ったのだと、その人たちは言いました
 単行本化されたことの無い、雑誌に1回載ったきりの短篇を知っているなんて、なんとマニアな人たちだ、とうれしくなってしまいました」



北村さん:
 「調べていくと、どうも<パリの万国博覧会で母が失踪>話は公式化された都市伝説話でいろいろな人がそれを元に作品を書いているらしいことがわかりました。
 コオリン・マーキーの『空室』もその一つですしベイジル・トムスン『フレイザー夫人の消失』もそうでした。

 で、ひとつ疑問に思ったのです。
 『B13号船室』のエピソードの元ネタはベイジル・トムスン『フレイザー夫人の消失』である、と翻訳されている田中潤司さんは『宝石』に書かれているわけですが、バリエーションがいろいろあるのになぜその作品に特定できたのか、と
 コオリン・マーキーの『空室』でもいいじゃないか、と」



北村さん:
 「ベイジル・トムスン『フレイザー夫人の消失』はなかなか読むことができない短篇なので9月に出す『北村薫のミステリー館』(新潮文庫)に収録することにしました。
 そこで、それにあたり田中潤司さんに訊きました。
 何故、カー『B13号船室』の<パリの万国博覧会で母が失踪>話の元ネタをベイジル・トムスン『フレイザー夫人の消失』と特定できたんですかって」



北村さん:
 「田中さんが答えてくれました、一言で。
 『カー本人に訊きました』



 昨日のジュンク池袋での北村薫さんと戸川さんのトークセッションでの一コマ。


幽霊射手 (創元推理文庫―カー短編全集 4  (118‐20))

幽霊射手 (創元推理文庫―カー短編全集 4 (118‐20))