イギリスのミステリ作家がクリスティを嫌う事情

 ミステリ・マガジン連載の「英国ミステリ通信」の第79回(『ミステリ・マガジン2005年7月号(No.593)』)で松下祥子が

「イギリスで、クリスティは今でも確かに本が売れテレビ・ドラマも高視聴率を上げているがP・D・ジェイムズやルース・レンデルの世代からさらに若いイアン・ランキンの世代までの作家たちの多くが謎解きゲームや上流階級のコージーな世界に反発して“非クリスティ的”なミステリを書こうとしている」

と書いている。

 P・D・ジェイムズやルース・レンデルがクリスティを嫌っていることは知っていたがそれはクリスティの<ミスディレクションを駆使した謎解きミステリ=手品文学>と<典型人間を配置した物語>を嫌っていることと、イギリスの女流ミステリ作家が登場するといつも<第二のクリスティ>だとか<クリスティを継ぐもの>と称されることを嫌っているせいと思っていたのだが、松下祥子の書き方をみると<上流階級のコージーな世界に反発して>のほうが主たる理由らしい。

 

「特に“庶民”の“上流”に対する非常に強い敵愾心はイギリス社会を読み解くうえの重要な鍵だが、イギリスの外にいる人には理解しにくい一面」

とのこと。