その3:新・箱根クロースアップ祭(第13回)レポート

 新・箱根クロースアップ祭に参加するとマジックグッズがおみやげにもらえる。
 と言ってもマジックのネタそのもではなくマジックの素材となるもの、がである。
 これをどのように使うかは各自自分で考えてみよう、というわけだ。

 今年はトランプ。
 裏の色が緑色のバイシクル仕様1組、その他にカード3枚とカード・ケース1個。

 最近黒裏のバイシクルが発売されたがそれまでは赤裏と青裏しかなく「もっと色を増やしてくれればマジックにいろいろ活かせるのに」と思っていたマジック研究家は多かったはず。
 緑裏のトランプだけでなく、今回も使い方の説明書は無いのだが、マジック用(マジック用と書いたがマジシャンにはお馴染みの○ブ○・バ○○・カード)カード3枚とマジック用(これも○ブ○・バ○○)カード・ケース1個も付けてくれたのでいろいろ手順が組めそうである。

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 おみやげを使っての手順は家に帰ってからゆっくり考えることにしていたのだが、たしか二日め昼食が終わってレクチャー2が始まる前、会場で同室に泊まったHさんと話をしているとコンベンションでよく顔を合わせるMさんが「こちらの人から、おみやげを使ってできるマジックを一つ教えてくれないかと頼まれたのだけれど何かあります」と言いながらもう一人連れて近寄ってきた。

 HさんMさんとで3人、ああでもないこうでもないとトランプをこねくりまわすもののなかなか上手い案も浮かばず、無難なところで『カードマジック事典』(東京堂出版 1983年1月発行 定価¥3,990)に載っている一組のトランプが全て色変わりするポール・カリーPaul Curryの手順をお教えしてそれで良しとしてしまいましょうか、と落ち着きかかったのだが、いやいやそれでは単に○ブ○・バ○○・カードの使い方になってしまうから別のにしましょうもう一度初めから、とカードをさわり続けていた。

 そうしているうちに「あそこで何かやっている」と人がだんだん集まってきてやがてプロ・マジシャンの方も加わり大がかりなディスカッションが始まってしまった。

 結局時間も無くその場ではそう有効な手順はできなかったのだがマジックのコンベンションではこういったプロアマ問わずのディスカッションやレクチャーもどきの場ができることがよくある。

 ミステリやSFのコンベンションでは、参加者は「作家・評論家・出版関係者」側と読者側に分かれる。
 つまり送り手側と受け手側とにである。
 もちろん「作家・評論家・出版関係者」は読者の立場として話はできるのだが作家でもなく評論家でもなく出版関係者でもない読者は読者と違う立場をとることができない。

 マジックのコンベンションでは、初心者熟練者やプロアマの違いはあるけれど、参加者はみなマジシャン。
 誰もが送り手側に立ち受けて側にも立つことができる。
 これが「マジック・コンベンション」の他のコンベンションと違うところ。

 実はこのこと泡坂妻夫さんがエッセイ『トリック交響曲』(時事通信社1981年2月発行、文春文庫1985年3月発行)の中で書かれていたことで、読んだときはまだマジックをしていなかったのでそういうものかと思っていたのだが、マジック・コンベンションに初めて参加したとき「ああ、そのとおりだ」と実感した。

 新・箱根クロースアップ祭・レポートとは違う話にそれてしまったのでこのあたりのことはまたいつか。