松本清張『時間の習俗』
松本清張『時間の習俗』(「旅」1961.5〜1962.11連載)を再読中。
第二次大戦後の日本で推理小説ブームを巻き起こした『点と線』のコンビが活躍するアリバイ破りものの佳作である。
謎解きミステリ・ファンから目の敵にされている松本清張だが(そんな気がするのはたんなる気のせい?)松本清張の同時代の作家と見比べて松本清張ほど真摯に謎解きミステリに相対していた作家はそう多くないのである。
松本清張ミステリ全盛期の頃、社会派推理小説と名打ったミステリもどきの作品が多く世の中に出たが結局今も残り読むに耐える作品と言えば松本清張作品がほとんどを占めそのほかはあまり多くは残っていない。
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ただいま『時間の習俗』の半分あたりまで読んだところ。
読み返して気づいたのは、なんと、これは。
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コンビの一人三原警部補がある人物に目をつけるのだがその理由が、「アリバイが完璧だ、あやしい」、それだけなのである。
被害者の身辺を洗い容疑者が浮かび上がり調べてみたらアリバイがあった、というわけではないのである。
被害者の葬儀式でたまたま見かけ、たまたま調べてみたらアリバイが完璧だった、だからあやしい、というわけなのである。
これではリアリティの薄い黄金時代のアメリカのゲーム型謎解きミステリが持っていたなけなしのリアリティよりもリアリティが薄いと言わざるを得ない。
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『時間の習俗』は、
はい、アリバイ破りミステリを始めますよ、
はい、あやしい人登場、
さあ、みんなでアリバイを破りましょう、
そのような感じで始まる謎解きミステリ・マニア向けの作品だった。