難しいといきは形を変えてみようじゃないか

 「困難を分割せよ」、という言葉がある。

 大方の謎解きミステリ・ファン、特に不可能犯罪ミステリ・ファンは、この言葉を「ミステリ・マガジン」(早川書房)に連載していた松田道弘の『とりっくものがたり』(筑摩書房 ちくまブックス 1979.5.25発行、文庫化(1986.6発行)の際『トリックものがたり』に改題)で知ったはず、たぶん。

 困難を分割せよ、という言葉があります。
 問題を異質の要素に置き換えることで、解決を容易にしようというものです。

 松田道弘はこれをマジックシーンが出てくるある短篇ミステリを実例にして説明を行っている。

 不可能に見えることを成し遂げるのは難しい。
 だから、いきなり最終段階に持っていくのでなく、いったん最終段階に持っていきやすい別の形に置き換え、そこから最終段階に持っていけば難しさが減る、というわけだ。

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 この言葉、マジック用語?
 出典は何?
 たぶん出典はこれだったはず、が本日のお話。

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 松田道弘が『とりっくものがたり』で紹介して以来、謎解きミステリ・ファンの間では、「困難を分割せよ」はマジック用語でありマジックの原理の一つを表わす言葉、不可能犯罪トリックにもあてはめることができる言葉でもある、と捉えられているような気がする。

 が、この言葉、出典はマジック関係・ミステリ関係ではない。

 哲学者・デカルトの言葉である。
 一見困難と思われる問題でも、分析してみれば、簡単で自明の事の組み合わせであることが多い、を意味する。

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 哲学の言葉は森羅万象にあてはめることができる。
 この言葉も例外ではない。
 マジックにもあてはめることも可能だ。

 この言葉、周りのマジック仲間との会話で出てくることは無く、またはこの言葉を使っているマジック本を松田道弘本以外で見かけたことが無いのでマジック・ファンの間で使われている言葉なのかどうかはよくわからないのだが、マジックのある面を表わすのに便利な言葉であり、出典がどうのこうのとここまで話してきたが、『「困難を分割せよ」はマジック用語である』としてもいいのだろうなあ、がここでのとりあえずの結論。

 ミステリ・ファン、特に不可能犯罪ミステリ・ファンの間で広まり使われるようになってきていることでもあるし。